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【データで見る】米Quirkyが倒産した理由

新年明けましておめでとうございます。

Wemakeスタッフの外山です。

 

新年1発目のブログは、【データで見る】米Quirkyが倒産した理由、です。

今更感が否めないですが、「Quirkyの倒産の要因はどこだったのか」ということについて、データを踏まえつつしっかりと分析したいと思います。

 はじめに

Quirkyと創業者Ben Kaufmanについて知りたい方におすすめは以下です。

全編英語字幕なしですが、ぼくはBen Kaufmanのこのプレゼンが一番好きです。

特に動画9:00前後のところで、Ben Kaufmanが、最初に発明したI podアクセサリーをつけている女の子を偶然NYの地下鉄で見かけた時の喜びが忘れられない、と語るシーンは必見です。すべての発明のアイデアを持っているが実現できていない人のために、地下鉄で得たあの喜びを体験してもらえるようQuirkyを立ち上げた、と話すBen Kaufmanはかっこいいです。(彼が、Andreessen Horowitzをはじめ、多くの著名な投資家を巻き込むことができたのは、この原体験に基づく圧倒的な説得力だと感じます

livestream.com

 

ちなみにですが、僕はBen Kaufmanが好きで、いかにBen Kaufmanが素晴らしいかについてのブログも後日書こうと思っています。彼のコミュニティに対する愛情と一貫したビジョンは素晴らしいです。あの屈託のない笑顔とお茶目っぷりも。ちょいとやんちゃすぎる部分もありますが。。

 

 要旨

本題に入ります。Quirkyが倒産した理由は以下だと考えます。

"Make Invention Accessible"をビジョンとするQuirkyが、利益や品質よりも発明点数を優先していたこと。

 

多種多様な発明をいかに早く多く製品化するかを追い続けた結果、

1) 高く作って、安く売らざるを得なかった

2) 製品化された各発明品の改善や向上よりも、新しい発明の推進を優先した

3) 大規模な資金調達により、利益ではなく多種多様な(複雑な)発明を製品化する傾向が強まった

ことが原因と考えます。

 

 

1) 高く作って、安く売らざるを得なかった

Quirkyは大量の商品ラインナップを展開していたことにより、高く作って、安く売らざるを得なかったといえます。各製品毎のボリュームが少ないため、サプライヤーとの交渉が難航し、仕入れコストが高くなりました。また多岐に渡る製品を手がけたため、ブランド力が乏しく小売で販売できない/もし販売できたとしても非常に薄利となりました。

Benは2015年2月のTown Meetingで、どのカテゴリーでもスケールする製品を作ることができなかった事が資金難に陥った理由と説明します。

2015/02のtownmeetingでの資料

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例1 : FREEWHEELは、プロダクトしての価値は大きかったが、Quikryのおもちゃ業界でのブランド/販売網がなく、ほとんど販売できなかった。

 

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例2:SHEATH 数量が少ないため仕入れが高くなり、ブランド力が低く売値が低くなる。文具メーカーのコスト競争力や商品力に対して優位性を示す事ができず、Quikryは$10高いにも関わらず-5%のGrowth Margin (他社は+35%の黒字)

 

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例3:BEAT BOOSTER $388,648投資するも、売れたのは28台のみ。他社のブランドに対しての優位性を証明できず、店頭で同列に並ぶオーディオメーカーに負けてしまう。

 

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2) 各発明品の品質を上げるよりも、新しい発明品の製品化に注力してしまった

Ben Kaufmanにとって、最大の関心はスケール(収益性)よりもどれだけの多くの人々の発明を世の中に届けるか、でした。

Ben Kaufmanは201502のtown meetingで、「なぜQuirkyが1カテゴリーに絞らないのか」とQuikryスタッフに質問しました。「1カテゴリーに絞ると、スケールしないから」と答えたスタッフに対し、「君の答えは最悪だ。1カテゴリーに絞った方がスケールするにきまっている。Quirkyが1カテゴリーに絞らないのは、その方法だと"Make Invention Accessible"できないからだ。」とかなり強い口調で言い放ちます。

 これは"Make Invention Accessible"というQuirkyのビジョンから考えても極めて妥当な結論です。ただ一方で、リリースした後の発明に関してのフォローアップが不十分だったことも指摘されます。一度世の中に届けた発明品をより良いモノにして拡販するよりも、まだ世の中に出ていない発明品をいかに世の中に届けることができるか、に注力したことが倒産の要因と言えます。

実際にQuirkyのエアコンを使用していたBen Einsteinは、製品に不具合はあるもののアイデア自体は大変気に入って、改良版が出ることを期待していました。だがQuirkyは次なる発明(コーヒーメーカーやペットエサやり機)などに注力し、改良版は二の次としていたことを指摘しています。

observer.com

 

またビジネスインサイダーのインタビューによると、“Ben didn’t want to pay attention to any product development fundamentals,” “There was a lot of stuff that I designed at Quirky that I would never put in my portfolio,”

などといったQuirkyスタッフの声も上がっており、Quirkyは収益性や品質よりも発明の製品化をトッププライオリティで行っていたことが伺えます。

 

新しい発明と製品ラインナップの推移

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投稿される新しい発明の推移

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Quikry 2015/02 townmeeting資料より抜粋

 

3) 大規模な資金調達により、利益ではなく多種多様な(複雑な)発明を製品化する傾向が強まった

QuirkyはシリーズCでの大幅な資金調達により、収益性や品質を従来ほどシビアに考える必要がなくなり、"make invention accessible"というビジョンを実現するため、発明点数を強引に追いかけることとなりました。

Quirkyの商品開発計画が大きく変化したのは2012年と考えます。 この年にQuikryはシリーズCでのAndreessen Horowitzらから$68Mの資金調達を行います。

 

Quirkyの資金調達の経緯  Quirky | CrunchBase

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以下ビジネスインサイダーの記事によると、シリーズCの調達後、Ben Kaufmanは週に3つのプロダクトのリリースを推進します。一方Quirkyスタッフのエンジニアやデザイナーからは品質などの面でスケジュールに無理があることを指摘されることもあったようですが、スピードを重視して走り続けました。

www.businessinsider.com

 

Quirkyの創業期などは、複雑な構造のものではなく、$5,000前後でも開発できるシンプルな発明も多く存在していました。大幅な資金調達が行わらず、限られたリソースで"Make Invention Accessible"のビジョンを追いかけていれば、もう少し違った未来があったかもしれません。

 

vimeo.com

 

 

vimeo.com

おわりに

 僕はQuirkyのビジョンは崇高で素晴らしいと思っております。実際にPivot Powerをはじめ、数多くの発明品を世の中に届け、新しいモノづくりのカタチを実践しました。ユーザーが欲しいモノを世界中の人々と一緒に創る、そんなワクワクするモノづくりの可能性を見せてくれたQuirky。

一方ビジョンを達成するアプローチの部分で課題があったことも事実で、巨額の投資が水の泡になる結果となりました。"Why"の部分ではなく、"How"の部分に大きなミスがありました。

Quirkyは資金難に陥った2015年2月以降をQuirky2.0とし、複数メーカーとのパートナーシップを結びます。開発リスク軽減やブランド力強化という意味では非常に有効なPivotですが、一方メーカーによる承認のプロセスが入るため各アイデアの製品化スピードは大きく減速します。スピーディーな製品開発はQuirkyの最大の強みであり、同時に最大の弱みでもありました。Quirkyの夢は潰えましたが、Ben Kaufmanのチャレンジはまだ続くと思います。次回は Ben Kaufmanの優れたCommunity Management能力に迫ります。

 

www.youtube.com

 

Meet Ben Kaufman, founder of Quirky, also known as the world's LEAST important CEO. At Quirky, our products are invented by real people who submit ideas to our website. Whether our CEO makes it or not, Quirky will continue to invent incredible new things.