元大手電機メーカーエンジニアがものづくりベンチャーに入って学んだ、商品開発に大切な3つのこと。
今日は。Wemake 自社商品開発担当 がんこです。
本日は「マスクをしていて耳が痛くなる」という問題を解決するプロダクト Mask Keeper について残念なお知らせをしなければなりません。。。ですが、その前に、Mask keeperの商品化検討を振り返りって学んだことをお話しします。
大企業とものづくりベンチャー、それぞれ3つの特徴
学びの前に、気づきがありました。
すでに語り尽くされている感はありますが、大手電機メーカーのイチ設計者としての実体験と、ものづくりベンチャーのプロダクトマネージャーとして感じたことから、双方の特徴を挙げていきます。
大企業の3つの特徴
- ヒト・モノ・カネの豊富なリソースを使う
多くの人と、多くのモノ、そして潤沢なカネ。自由に使えるというわけではありませんでしたが、正当な理由があれば融通してもらえました。特にモノについては様々な機材・測定器が揃っており、足りないモノはほぼないという状態で、その点では非常にやりやすかったです。 - 専門化集団による高い技術
それぞれがそれぞれの専門分野に特化し、日々の業務を通じてスキルアップしていくため、どんどん技術が習熟していきます。また、他部門とはいえ、隣で働いていますし、関わりもありますから専門以外の分野の基礎的なスキルも自然と身につきました。 - top-downで進めていく
上記二つをまとめあげるのが、マネージャーの役割でした。上から与えられるミッションを噛み砕いてメンバーに共有させ、製品を日程通りに出荷するために日々邁進しておりました。とはいえ、同じ会社の社員ですから、同じ方向を向いて同じビジョンを見ています。そう言ったコミュニケーションコストはあまりありませんでした。
ものづくりベンチャーの3つの特徴
- リソースは人を巻き込んで作る
正直言って、前職と比べたら本当に何もありません(苦笑)。ですので、メンバーを巻き込んで創意工夫で様々な課題を乗り越えていきます。ヒトがいないなら専門家を頼って話を聞き、モノが無いなら借りに行き、カネが無いなら…、うん、まあ、そういうことです。。。
新しい商品を開発するための、リソースから作るという「チャーハンを作るために、まず畑を耕そう!」という、どこかのアイドルグループの様な事をやりました。 - 基本的に上から下まで全部やる
リソースから作るという事をしていますから、専門家になる必要はなくとも、流れや概要は知っておかねばなりません。また、全部を任せるというわけにもいきませんから、ある程度以上は自分でやります。非常に大変ですが、一次情報を得ることは判断をする上で必須のことだとわかりました。 - build-upで作り上げる
商品開発を行う体制を作り上げていくことは、なかなかに面白く、そして大変に困難な作業でした。それぞれが別々の方向を向き、目指すゴールも違う人たちをいかにして自発的に協力してもらう仕組みを作るか……。ビジョンや想いを共有することがこんなにも難しいことだとは思ってもみませんでした。ただ、その作業が終わると取り組みにも自然と熱が入っていき、コミュニケーションにかかる時間も次第に減少していきました。
「ものづくりとは、組織を創ること」ですね。
以上、三つずつ挙げましたが、もっとも違いを感じたのは、リソースです。前職ではすでにあるリソースを誰がどう使うかが問題となっていましたが、ものづくりベンチャーではリソースを作ることが課題でした。
Mask Keeperで学んだ、商品開発に大切な3つのこと
商品化に対する熱い想い
まずは熱い想い! これがなければ始まりません。投稿者yamashita koumeiさんとなんどもお話しするうちに、Mask keeperに対する愛着がどんどん湧いてきて、商品化への意欲が増していきました。
一次情報に触れること
実を言うと、私はマスクをしていても耳が痛くなりません。そのため、耳が痛いという人のことがさっぱりわかりませんでした。そこで、アンケート・街頭インタビュー・オフィスでのヒアリングを通して「耳が痛い」とはどういうことか、耳が痛い人のナマの声を聞いて理解を深めていきました。「ここがこう痛いんだ!」という人が目の前にいるわけですから、痛みがリアルに感じられ、商品開発に生かすことができました。
冷静な判断を行うこと
しかし、事業として存続するためには利益が出るかどうかが問題になります。前職でその判断はすでに終わった後で、目の前の技術的課題の解決に取り組んでいればよかったわけですが、今は課題解決と並行して事業的な判断を求められます。想いだけではご飯は食べられませんからね。
そして、商品化したいという熱い想いと、現実的な計算を行い、Mask Keeperを商品化するかどうかの判断をする時、に耳が痛い人の声が響いてきました。。。
Mask Keeperを商品化するかどうか
Mask keeperの商品化は、これを断念いたします。
インタビューやヒアリングにおいて、耳が痛くなる人の多くが下の写真の赤丸部分、耳の付け根が痛くなると言っていました。
投稿されたMask Keeperのデザインは改善前、改善後、ともに「耳にかけて使う」ものでした。そのため、耳の付け根が痛くなる人に対し、有効な解決方法ではないと考えられます。実際に試作品を作っても耳の付け根部分にかかってしまい、むしろ痛くなる場合もありました。
そこでデザインコンセプトを変更して「耳に紐もMask Keeperもかからなければ良い」という仮説を立てて検証を行いました。
上の写真では耳に紐もMask Keeperもかかっていません。ですが、ガイド部分が耳より大きくなるためとても目立っています。また、ガイドが大型化したことで重くなってしまい、ちょっとしたことでずれてしまい、紐やガイド部分が耳にかかってしまうのです。
量産となればもう少し薄く小さくできると考えられますが、小型化も限界があります。耳より大きくなることはデザインや設計では解決しきれません。。。そして、ガイド部分に紐をかけるのが非常に面倒で、ちょっとしたことで外したりつけたりする時にすごく手間がかかってしまいます。
最後に、強力な競合商品として、耳にかける部分を紐ではなく不織布の帯を用いたマスクがあります。このマスクを使うと耳が痛い人も耳が痛くならないという結果がでてしまい、Mask Keeperの優位性を示すことができませんでした。
結論とこれから
以上の結果よりMask Keeperは商品化してもニーズを満たすことはできないと判断し、商品化を断念することといたしました。
今後は残り3つのプロダクトを商品化すべく邁進していきますので、楽しみにお待ちください!